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徳島地方裁判所 昭和45年(ヨ)88号 決定

申請人

呉羽邦夫

外二名

代理人

鏑木圭介

河田毅

被申請人(被参加人)

四国高速運輸株式会社

代理人

岡田洋之

補助参加申出人

全日本労働総同盟全国交通運輸労働組合

総連合四国地方本部四国高速運輸労働組合

代理人

城戸寛

右申請人ら三名被申請人間の当庁昭和四五年(ヨ)第八八号従業員地位保全仮処分申請事件につき右補助参加申出人から被申請人を補助するため補助参加の申出がなされたところ、申請人ら三名はこれに対し適法に異議を述べたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件補助参加の申出を許可する。

異議によつて生じた費用は申請人ら三名の負担とする。

理由

補助参加申出人(以下参加組合という)の参加の趣旨および理由並びに申請人ら三名の異議理由はそれぞれ別紙(一)並びに同(二)記載のとおりである。

まず、一件記録によると、申請人ら三名の本件仮処分申請の趣旨は「(1)被申請人は、申請人ら三名をその従業員として仮りに取扱え。(2)被申請人は、昭和四五年四月五日以降毎月末日限り、申請人呉羽邦夫に対し金六四、七〇〇円、同白石重雄に対し金六三、〇五八円、同横山修に対し金六一、四三一円をそれぞれ仮りに支払え。(3)申請費用は被申請人の負担とする。」との裁判を求めるというのであり、その理由とする被保全権利の要旨は「申請人らは被申請会社の従業員であつたところ、被申請会社は昭和四五年四月四日申請人ら三名を解雇した。しかして、右解雇事由は被申請会社、参加組合間にはいわゆるユニオン・ショップ協定が存するところ、申請人ら三名はそれより前参加組合を脱退したことによるという。しかし、(1)申請人らは参加組合から脱退を強要されたが、これを拒否したし仮りに脱退したとしても、申請人らの脱退は単なる個別脱退ではなく、全港湾関西地方沿岸南支部四国高速運輸分会を結成し、これに加入したためであり、この現象は組合の分裂と目すべきものであつて、かかる場合には既存組合と使用者間のユニオン・ショップ協定の適用はない。(2)仮りに然らずとしても、本件解雇は、不当労働行為である。以上いずれにしても、本件解雇は無効であるから、申請人らは依然被申請会社の従業員たる地位を有する。」というにあることが明らかである。

そこで、参加組合の本件補助要件の存否につき按ずるに、参加組合の提出した疏明並びに一件記録に徴すると、被申請会社の従業員である申請人白石、同呉羽は昭和四五年三月一四日、同横山は同月一八日それぞれ参加組合を脱退したところ、参加組合は当時被申請会社との間でいわゆるユニオン・ショップ協定を締結していたので、同月三〇日被申請会社に右脱退受理の通告をなし、よつて被申請会社は申請人三名を解雇したことが疏明せられる。そこで、申請人ら三名は被申請会社を相手方として前示仮処分訴訟をおこしたのであるが、いまもし右訴訟において被申請会社が前記ユニオン・ショップ協定の効力を否認され敗訴するときは、被申請会社としては申請人らの従業員たる地位を容認せねばならず、右被申請会社、申請人ら間の法律関係は事柄の性質上第三者たる参加組合としても実体上これを承認せざるをえない立場にあり(いわゆる対世効ないしは反射効)、これはとりもなおさず参加組合のいわば既得権ともいうべきショップ協定上の権利を否認されたことになり、参加組合の組織の維持強化に支障を来たすこと必然である。してみると、参加組合はまさに右訴訟の結果につき利害関係を有するのであり、右利害関係は、、参加組合の団結権に思いをいたすと、到底単なる事実上、感情上のものとはいえず、かえつて法律上の利害関係であると解すべきものである。しかして、以上の判断は本件被参加訴訟が本案訴訟にあらず、保全訴訟であることの故に何らの消長も来たさない。

申請人らは、本件異議事由として、本件訴訟では、ショップ協定無効のほか、不当労働行為をも理由として地位保全を求めていることの故に、参加組合の補助参加利益がないかのように述べているが、二次的に他に解雇無効事由が附加されているの一事をもつて一次的事由にかかる参加の利益が消滅するわけではないこともちろんであるから、右主張は失当である。また、さらに申請人らは、参加組合が有する利害関係は本件訴訟の訴訟物に関するものでなく、せいぜい被保全権利を理由あらしむる事実に関するものに過ぎないから参加の利益を欠く旨述べるけれども、参加組合としては被申請会社敗訴の結果たる申請人らの従業員の地位を承認すること自体について法律上の利害関係を有すると解すべきこと前説示のとおりであるから、右主張も採用し難い。参加要件を定めた民訴法六四条にいわゆる「訴訟の結果」を即当該訴訟の判決主文または訴訟物自体と限定して解すべき文理上の必然性は必らずしも見出し難いと言えないわけではなく、むしろ、参加人、被参加人間の後訴における無用の再紛争を封ずるという補助参加制度の実際面における機能に思いをいたすならば、かえつて、叙上の如く制限的に解することに疑念なしとしないのであつて(殊に、本件のように従業員たる地位の確認を本案とする場合の被保全権利は「解雇無効の確認」と表現される場合もあるように、解雇事由と密接表裏の関係においてその存否が決せられる場合はそうである)、現に前記のように解すると、(1)保証債務請求訴訟における主債務者の保証人のためにする補助参加の利益すら否定せざるを得ず、また(2)ある訴訟の一方当事者につきいわゆる主観的択一関係にある第三者(例えば、甲が乙を契約当事者本人として契約責任を追求する訴訟につき、乙は単に丙の代理人であつたかもしれないような場合における本人丙)を補助参加せしめた場合の実際上の便宜を奪う等の支障も存する((1)の点を理由に「訴訟ノ結果」とは当該判決の主文のみならず理由中の判断をも含むと解している大阪高裁昭四一・二・二決定高民集一九巻一号五一頁参加)ことが指摘されなければならない。

そうすると、参加組合は本件仮処分訴訟につき被申請会社のための補助参加要件を具備している(結論同旨・東京高裁昭和四・二・五・四決定労民集一八巻六号一〇八五頁)。

よつて、参加組合の被申請会社のためにする本件参加申出は適法であるからこれを許し、異議によつて生じた費用の負担につき民事訴訟法九四条・八九条を適用して主文のとおり決定する。(畑郁夫 葛原忠知 久保田徹)

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